2012年11月02日(Fri)
■ 『いのち五分五分』山野井孝有 著
2011年7月、山と渓谷社から出版されたこの本は、ギャチュンカンで下山中、雪崩にあい、脱出の過程で凍傷を負い手足の指を失うほどの困難な状況から生還した登山家・山野井泰史さんの父が、父の視点から息子の登山家としての生き方を記したものだ。
ギャチュンカンの登山は2002年のことで、この山行は2005年に作家沢木耕太郎氏が『凍』で詳細に記された。もうひとつ、山野井泰史さんご自身によるギャチュンカン含めた数々の山行をエッセイにした『垂直の記憶』もとても良い本だ。
『凍』にしても『垂直の記憶』にしても、メインは登山のことなのだけれど、その中で登場する、ギチュンカンではペアを組んで登攀された、山野井泰史さんの奥さんの山野井妙子さんが、異彩を放っていてとても気になる存在だった。
山野井妙子さん自身も日本のトップクラスの女性登山家で、アルパインスタイルで8000m峰四座に登っている。その中ではペアを組んだ相手を凍死で亡くされたり、凍傷で手足の指をなくされたりという体験も経られている。山野井泰史さんとの交際は、凍傷を負って帰国され、入院されていた頃から始まった。
山野井泰史さんについての本は、『ソロ』という本もある。この本は妙子さんについて、暗くて陰気な女だとか、そんな女を嫁にするとは考えられないといった悪し様な口調で書かれていて、読んでるこちらが不愉快に感じた。
『いのち五分五分』ではやはり障害のある女性との交際に消極的だった父が、二人が住む奥多摩の小さな古い家屋を訪れ、そこで、貧しいながらも、手仕事や地域の人々との交流を通して、豊かな暮らしをしているのをみて、妙子さんを心底認めてゆくのが、素晴らしかった。
この本の後半は、息子についてよりも、嫁の妙子さんについて、多くのことを記している。嫁の父フィルターがかかってるけれど、山野井妙子さんについて知るには貴重な本だと思う。*1
ソロ 単独登攀者 山野井泰史 (ヤマケイ文庫)
山と渓谷社
¥ 998
*1 山野井妙子さんの登攀そのものについて、『いのち五分五分』では、さすがにそこまでは書かれてなかったけど、それは著者が登山家そのものではないので仕方ない。