2013年09月11日(Wed)
■ 『登頂 竹内洋岳』塩野米松 著
2012年のダウラギリ登頂で、世界の8000m峰14座、登頂した竹内洋岳さんのお話しを、著者 塩野米松さんが書き起こした本。
前著、『初代 竹内洋岳』は12座目までの話で、この本はその続編。最後の二座について。
ブログで読んでいたけれど、やっぱりブログはよそ行きの顔が強くて、あっさりあっさり、薄めて書かれた登頂報告のその裏に『ミニヤコンカ 奇跡の生還』で読んだような、高所下山の恐怖のエピソードが描かれてて、くらくらした。
8000m級の山で怖いのは、登りよりも下り。酸素も薄く、体力を消耗し、水分もエネルギーも補給できずに行動していると、人間は幻覚を見るらしい。
特に13座目チョー・オユーで登頂成功後の下山時に、竹内さんは中島さんとはぐれてしまい、ルートを見失い、誤った場所に出てしまう。もしもそこで登り返す気力を出さなかったら遭難してもおかしくないという状況で、幻覚を見たり、視界がおかしくなったり…。
その様が、今まで読んだ遭難の話で一番、迫力のあった『ミニヤコンカ 奇跡の生還』にかぶって、ぞくぞくした。
ご本人が語ると飄々としすぎた語りで、ブログにしろ、講演会にしろ、切迫した感じはないけれど、第三者の書き手を得ると、やはりそれは大したことで。
プロと自負する経験、情報を含めた装備、作戦から、誤ったルート、幻覚にあっても、どうして生還できたのか不思議ということはまったくない。竹内洋岳さんなら帰ってくるなという安定感がある。
でも、それだけの備えがあっても、超高所、生物が本来、生きることのできない世界は侵入してくる生き物に、生と死ギリギリの試練を容赦無く課してくるのだなと、ため息が出た。
かっこいいです。
2013年09月23日(Mon)
■ 『カブールの本屋 アフガニスタンのある家族の物語』 アスネ・イエルスタッド 著/江川紹子 訳
男女平等思想の行き届いたノルウェー人の女性ジャーナリストが、2001年頃、アフガニスタンのインテリ家庭に滞在取材して書いた本。
家庭の主人は、英語も話せ、政府の発禁本でもアフガニスタンの歴史や思想を扱ったものなら価値を見出し隠し持ち、裏で商いするような先進性を持った人物なのだが、一方で第二夫人の幼妻を娶ったり、家父強権で妹や娘の嫁ぎ先について決定を下し、息子を学校にやらず店で働かせるなど、風習の常識かもしれないが、人権希薄な振る舞いも行う。
最近のニュースでインドで嫁入り前の娘が階級の違う男性と駆け落ちし、それを追いかけて二人ともを娘の親兄弟が殺してしまう、家庭の名誉を守るための名誉殺人という事件があったが、アフガニスタンでも同じようにあるらしい。この本では、たった一度デートをしたら兄弟に殺されてしまう娘の話が出てきたし、それ以前に手紙のやり取りをするだけでもふしだらとされ暴力で抑制される怖い話があった。
女性の不自由さの問題だけではない。子どもの教育でも同じように驚くことが書かれていた。政教分離が出来ないままの教育で、イスラム教の教えを暗記して来ない場合の鞭打ちや、軍が教育に強く影響を与えている状況下でのテキスト(算数の問題が、銃の球の数とその球で何人殺せるかの計算!)など。それが昔の話ではなく今世紀に入ってからの話なのだから、驚いてしまう。
この本だけを読んで、アフガニスタンやイスラム社会を理解したとするのは安易過ぎるし、正しくはないだろう。イスラムの教えなのか、それとも家父長が強権を握る文化のせいかわからないけれど、罪や穢れを赦さない文化がある。 その中で女性や子供、貧しい者は疲弊してゆく。
タリバンを代表とするイスラム過激派を欧米先進国が軍事力で抑止するだけでは太刀打ちできない風習や文化がそこにあるということは、理解できた気がする。