2012年10月19日(Fri)
■ 『マタギに学ぶ登山技術 山のプロが教える古くて新しい知恵』 工藤隆雄 木部一樹
1991年刊行本を底本に加筆修正し2008年刊行された本。マタギは山で狩猟をしていた日本の山岳民族らしい。今はその名残ある子孫の方々が、独特な山の技術を伝えているけれど、もうマタギそのものが途絶えるのは目前のように思えた。
この本では、青森、秋田のマタギの方や、マタギにくわしい植生学者への取材により、豊富な写真や図解で、登山というよりも山のアウトドアテクニックについて、歩き方から火起こし、野宿の方法、気象や地形の危険の避け方など一通り書かれている。ただし、それぞれ人によってやり方も大きく異なるようで、確立されたノウハウとは少し異なる。雪崩など右斜めに泳げば良いと書かれ、どこまで信頼して読んで良いのか、面食らうところもあった。
また、山で飲める水について、ブナ林など原生林で濾過されたものは良いとしつつも、造林地の水は除草剤の危険があるし、上流に山小屋やキャンプ場がある川は大腸菌がある可能性があるし、川にしても護岸工事されてる川はバクテリア浄化が死んでるので危険だし、魚を取るために流された毒がある可能性があったりもして飲むのは止めた方が良いそうだ。最後は少し脅しのための作り話の気がするけど、でも何か経験上、うかつな水は飲まない方が良いという知恵なのだろう。
ところで、マタギという山で狩猟する人々と、一般の登山者の大きな違いは靴と歩き方のようだ。マタギは登山靴は履かず、長靴で行動する。狩猟が目当てなので登山ルートを歩くとは限らない。なるべく山の植生へのインパクトを少なくするため長靴なのだそうだ。
たまに登山にいくのに登山靴ではなく、長靴を使うエピソードを見かけるが、ルーツはマタギ的な山歩きなのか、と、合点がいった。
この本には「一度は読みたいマタギの本」があげてあり、学術資料では『狩猟伝承研究』(1969 千葉徳爾 風間書房)、小説では『黄色い牙』(1980 志茂田影樹 講談社)『邂逅の森』『相克の森』『氷結の森』マタギ3部作 熊谷達也などがあげられていた。まだこれ以外もたくさんの本があった。マタギの山の世界も、深いようだ。