2012年10月07日(Sun)
■ 『私の北壁 マッターホルン』 今井通子
9/30に日テレのバラエティ番組『世界の果てまでイッテQ』でイモトアヤコさんという女性の芸人さんがマッターホルンを登った。
バラエティ番組とは思えないくらい本格的で、その前は9月初めにマッターホルンに向けての特訓で、日本で劔岳にも登っていた。
わたしはにわか登山本(山そのものというよりも、山での体験を記した山行という種類の本)のファンなのだけど、ここのところさまざまな登山の本を読んで、登山と一言で言ってもハイキング的な山歩き、垂直に近い岩を登るクライミング、幾つもの山を何日もかけて巡り歩く縦走、積雪のある冬山登山、8000mという超高所の登山と、登山にも種類があることを知った。
イモトが今回挑んだマッターホルンは、この中でクライミング的な岩を登ってゆくタイプの登山だ。標高は4000mを越え富士山よりもずっと高い。劔岳の切り立った岩山の映像も迫力があったけれど、スケールがそれよりも遥かに大きく、イモトは高所恐怖症と言っていたが、途中から高すぎて恐怖がごまかされるくらいだとリポートしていた。そこをガイドについて、岩に取り付いてゆく。迫力のある番組だった。
あまりにも登山を知らないわたしには衝撃で、しばらくイモトのマッターホルンの番組についての言及をウェブでウォッチしていた。その中で、イモトはエベレストを日本人女性で初めて登頂した田部井淳子さんや医者で登山家の今井通子さんの系譜ではないかという発言を目にした。
田部井淳子さんは以前、エベレストものを追っかけていたときに知ったけれど、今井通子さんのお名前は恥ずかしながら初めて知った。
少し検索したところ、今井通子さんはカモシカスポーツの社長の奥さんでもあることを知った。
カモシカスポーツは以前は野毛の外れに店舗を構えていたが、今は横浜日産ビルの1,2Fに店舗がある、登山専門店だ。山をあまり知らないわたしでも知ってる横浜では有名なお店である。
最近、店を冷やかしに行ったら、アイゼンやカムやハーケンなど、本や映像でしか知らなかった山の用具がたくさん並んでいて、手に触れなかったけれど間近にどきどきしながら眺めたり、山関連の書籍コーナーがとても充実していたり、無料でコーヒーを飲みながら山岳雑誌のバックナンバーを閲覧できるコーナー、登山イベントやサークル、保険などのチラシコーナーなど、単に山用品を売るだけでなく、登山というコミュニティを全面的に支える何か、言うなれば無名の質が濃厚に漂う何かがあった。
そんなカモシカスポーツの社長の奥さんで、医者で登山家。どんな人だろう?と思い、出版されているタイトルを眺めてみたら、『今井通子 私の北壁 マッターホルン』が目に飛び込んできたのだ。
この本では、幼少からどのように山に親しんできたのか、山歩きに始まって、だんだんクライミングに傾倒してゆく様子。初めての海外遠征で隊長を務める重責。家族に心配をかけていることの自覚。仲間の死。けれども、困難を克服しても取りついてゆく、山の魅力が、整然と、テクニカルな話あり、岩山の中腹でビバークしながら眺めた月の美しさあり、それぞれ人の想いあり、余すことなく語られていた。
本が初めて記されたのは1968年。わたしが生まれるよりも前に、こんなすばらしい登山の山行を記された女性がいる。登山の世界の奥行きの深さに感嘆した。