2013年08月21日(Wed)
■ ジョンストン海峡のオルカの話。『Wee a wu』と『オルカ』
少し前に、twitter経由でスプリンガーという名のオルカを知った。2002年、当時2歳だったオルカの女の子が、定住していたカナダの海域から姿を消し、3-400km離れたアメリカのシアトル付近で迷子になっているのを発見され、人間の手で元の群れに返されたという話だ。
発見された時、母親の姿がなく、亡くなったことが推察され、孤児になったオルカの子が、群れに戻った時、オルカ達がどんな反応をするかが研究者やマスコミの注目を集めたらしい。ウェブ上では、当時、その現場にいたオルカラボのスタッフの方のブログが詳しい。
調べてみたら、このブログの著者三屋智子さんは、過去にスプリンガーの話を含めて、オルカとの交わりの体験をまとめたエッセイ『Wee a wu カナダ、ハンソン島、オルカ日記』を出版されているとのことで、図書館で借りて読んでみた。
wee a wu―カナダ、ハンソン島、オルカ日記
山と溪谷社
¥ 1,680
そして、オルカ繋がりで思い出し、もう一冊、学校教科書にもエッセイが掲載されている海獣フォトグラファーの水口博也さんのことも思い出し、著作『オルカ』を借りてみた。
オルカ―海の王シャチと風の物語 (ハヤカワ文庫NF)
早川書房
¥ 672
借りる時、わたしは意図してなかったけれど、この二冊はまったく同じ海域、バンクーバー島が面するジョンストン海峡が舞台で、水口博也さんの『オルカ』が1990年代の様子を、三屋智子さんの『Wee a wu』が2000年代の様子を描いたものだった。
オルカの寿命は50-60年、長生きするものは80歳近い個体もいるとのことで、年代は違うけれど、どちらの本にも登場するオルカが複数頭居て、ちょっとした続きものの物語を読んでいる気分になれた。こんな体験は滅多にないので、面白かった。
海や自然、オルカの生態の描写は教科書に掲載されるくらいの安定した執筆力のある水口博也さんのエッセイが数段上手かったけど、まだスプリンガーが生まれる前の時代のことで、迷子になった仔オルカの感動の帰還については三屋智子さんのエッセイが思わず涙ぐんでしまうくらいに感動的だった。
ところで、蛇足だけれど、20年くらい前、水口博也さんがイルカやクジラの鳴き声を録音したものをまとめたCDを出され、その記念トークショーに行ったことがある。
その時の質問コーナーで、水中の音声の拾い方を、思い切って手をあげて質問してみたのだけど、その時は「ビニールなどでマイクが濡れないように覆って、海中にぽちゃんと入れるだけですよ」と回答いただいた記憶がある。
今回、『オルカ』を読んでいたら、マイクを保護する製品がもう少し詳しく書かれていて、20年経って、わたしはようやっと真相がわかってスッキリしたけど、トークショーで(当時)若い女子から出てきた質問にどこまで答えるか水口さんは少しお困りになられたかもと思うと、ちょっとおかしくなって笑ってしまった。
水さえ遮断してくれれば何でもよかったが、とりわけ薬局で手に入れることのできるゴム製品は、その薄さと丈夫さと簡便さゆえに申し分のない材料だった。--『オルカ』p.242
そして直接、固有名詞を出すことを避けた、でも大人が読めば、ああ、アレかと分かる書き方に、水口博也さんのエッセイはやっぱり良いなぁ、と、思ったのだった。