2013年07月15日(Mon)
■ 『善と悪 プロファイリング 犯罪心理分析の父、その凄絶なる冒険』ロジャー・L・デピュー
善と悪―犯罪心理分析の父、その凄絶なる冒険
PHP研究所
¥ 1,890
元FBI行動科学ユニット(BSU)チーフ、アカデミーグループAGI創設者という肩書きを持つ著者の犯罪者と戦ってきた自伝的書物。
著者がBSUのチーフに就任したのは1979年で、10年間在職した。その前は、神学校に入ったものの一年で挫折、私立高に転入して180度転換してカリスマ的なワルになり、親から自立するために海軍へ入隊。除隊後は、警察官になり、警察署長になったものの、大学で心理学や社会学を学び始め、学位を取るために学生と兼務できる少年裁判所へ転職。学位を取得してからFBIに申請書類を提出し、ワシントンDCでFBI特別捜査官としての活動が始まった。
プロファイリングは、1979年当時はまだ新しい犯罪捜査の手法で、1988年トマス・ハリスの小説『羊たちの沈黙』でメジャーになり、現在ではクリミナル・マインドなど多くの刑事ドラマで一般的な捜査手法になっている。
わたしがこの本を読もうと思ったのは、クリミナル・マインドのネタはどの辺だろう?という疑問だった。以前、登山漫画の『岳』を読み、その後たくさんの登山本を読んだ時に、フィクションだと思った事故が現実にあったと知り、衝撃をうけた。クリミナル・マインドを始めとする刑事ドラマも、もしかしたらそのように現実に元となる話があるのかもしれないと思ったのだ。
実際、この本はドラマで見たような犯罪が出てきた。けれど、それ以上でもあった。捜査官の人生もまた数奇なものだと思った。
多くの犯罪に接し疲弊した心のバランスを、家庭での妻との関係でかろうじて保っていた著者は、50代でその妻を癌で亡くし、いよいよ心のバランスが危うくなった。そこで、修道院のような神学校に入るのだ。
そして、神学校で過ごすだけでなく、ある程度、妻の喪失感が時間によって癒されると、神学校から派遣されたカウンセラーとして、刑務所でかつて自分が逮捕してきたような犯罪者と面談するようになる。
犯罪者とのカウンセリングで劇的に相手を回心させたということは残念ながらない。悪そのものになった人間のどうしようもなさが描かれているのだが、そこで違うのは著者の善悪に対する姿勢だ。この世には悪しかない、悪だらけだと悲嘆するのではなく、悪と同じように善がある、と、信じられるようになっている。この思索部分、わたしは好きだ。
プロファイルは、やっぱりわたしにはなんでその現場や証拠を分析すると、犯人像がそう導きだせるの?とまるで魔法を見るような視線で見てしまうのは、この本を読んでも変わらなかった。けれど、ドラマのクリミナル・マインドで、犯罪に疲れたベテランの捜査官が引退してしまうのだけど、その心境の裏付けのようなものはこの本から得ることができて、満足だった。