2012年11月23日(Fri)
■ 『百年前の山を旅する』服部文祥 著
すごく良かった。なぜ、わたし自身が登山文学に惹かれるのかわかった気がした。端的に言い表されている箇所があった。
この本は七つの山行からなる。山岳雑誌『山と渓谷』初代発起人、『岳人』初代発起人、また、大正元年(1912年)の宣教師の、それぞれの追跡山行。若狭から京都まであったと言われる鯖街道、また、江戸時代の黒部奥山廻りの発掘山行。そして、北アルプスで見つけた一つの火器を巡っての過去から現代への探検に関する思索山行。
どれをとっても興味深いものだったが、わたしが一番面白かったのは、古文書に描かれていた江戸時代の黒部奥山廻りが、本当に実施可能だったのか、その道を発掘する目当てで分け入った山行だ。
道を発掘といっても、いわゆる峠道のように踏み固められた道は、最初から期待されていない。古文書の地図と、現代の地図を照らし合わせ、そして、実際に著者が当時の装備を出来る限り真似て行動し、人が辿れるかどうかを追試するのだ。
古地図は、現代の測量の行き届いた地図とは異なり、人の認知や解釈が大きく入り込む。著者が現地を辿りながら古地図に描かれたいにしえの人々の心理をも掘り起こすのが、なんとも言えない迫力があり、良かった。
そして、巻末には、それぞれの山行について、参照した本と、その本の簡単な解説もあった。その文献を元に新たな山岳文学に触れるのも良いだろう。だが、本書の山行は、文献を読み、そこから得た過去の事実と現代の自分を繋ぎあわせるための山行というパターンになっていることをここから読み取ることが大切な気がした。
この本は折に触れて思い返し、読み返す本になりそうだ。