2012年11月09日(Fri)
■ 『生と死のミニャ・コンガ』阿部幹雄 著
1981年5月10日、7556mの山頂付近で、自分ひとりを残して、7名が一本のザイルに連なったまま落ちてゆく。声は発せず、恐怖と驚愕に見開かれた視線を残して。
著者の目の前で起こった悲劇を、なぜそんな結果に至ったのか、一年前の準備段階から予兆を記し、そして、事故後の15年の間の体験を織り交ぜて、敗因を徹底的に記す。
また、遺族に寄り添い、遺体発見できた場合の埋葬方法を探り、発見の知らせがあれば現地に赴き、遺族と共に現地の寺に葬る準備を重ねる。
人の死を、どこで区切りをつけて、遺された者は生きてゆくのか。人が人の死を受け入れることの複雑さ、重さを、ひとつひとつの足取りを通して丹念に描き出している。
この本は、2000年に上梓された。ミニャ・コンガから20年も経っている。しかし、頂上付近の出来事は鮮明で、著者はこのことを、何度も何度も何度も、強く思い返し生きてきたのだろう、それは大変、しんどいことだろうと思った。
■ 『エベレスト登頂請負い業』村口徳行 著
カトマンズの雑踏で日焼けした顔色の真っ黒な男に声をかけられる。「エベレストに登りたいのはお前か」。そして値段交渉がはじまる…といった展開かと思ったらまったく違った。
著者の村口さんは、日本人で一番、エベレスト登頂回数の多い方だ。職業は山岳撮影を得意とするフリーカメラマン。2011年に上梓されたこの本のあとがきで、これからNHKのグレートサミッツ隊で、エベレストへ行くと記されていたので、今年の正月にあった番組で、エベレスト頂上でカメラを回されていたうちのお一人だったのだろう。とても壮大な映像だった。
そんな村口さんは、過去にさまざまな人とエベレストへ同行している。一番最初に登場するのは野口健さんだ。
わたしがここのところ、登山ものにはまっているきっかけの一つは、ウェブでみたエベレスト山頂付近に放置されたままにある遭難者の遺体写真で、エベレストとはどんなところだろうかと興味を持った。
そして、検索してトップに引っかかるのは野口健さんのブログで、エベレスト登山について書かれたエントリは片っ端から読んだ記憶がある。
確かその中で、エベレストを始め8000mを越える山の登山には、高度順化といって、何度も少し標高をあげるところまで登ってはまた降りてきて体調を整え、また高い所に行ってと、2,3ヶ月をかけて徐々に身体を酸素が希薄な高度に慣らしてゆくことを知った。
村口さんの本を読んでいると、初めてエベレストへ臨んだ野口さんはこの方法を全く知らなかったそうで、村口さんは失敗を見守りつつ、エベレスト登山のセオリーを伝授したようだ。
他にエベレストの頂上付近まで、化石の採取に付き合った登山や、日本人女性最高齢の渡邉玉枝さんと登った時の話、また、冒険家三浦雄一郎さんの、70歳、75歳それぞれのエベレスト登頂に同行された話がある。いずれも耳にしたことのあるエベレスト登頂のエピソードで、それらの登山は村口徳行さんが裏方として支えられていたのだなと、よくわかった。
高度順化のタクティクスをどう組むかが一番楽しいという村口さんは、また同行者が安全に生きて帰るようにタクティクスを組むのも重要だとし、惜しまずに全ての話に、その時のエベレスト登頂のタクティクスを載せている。
また最後の章は「あなたの場合」として、これからエベレスト登頂する人にネパール側、チベット側両方それぞれのタクティクスの組み方を提案している。
わたし自身はエベレストに登るつもりはまったくないのだけど、再来年、芸人イモトがイッテQという番組で、エベレスト登頂を目指す宣言をしているので、その展開を予想して楽しむのに、この本は良い資料になるなと、ちょっとうれしい気分で読み終えた。