2010年01月20日(Wed)
■ 『サイバービア』(カウンタカルチャからハイテクヒッピーの系譜)
サイバービア 〜電脳郊外が“あなた”を変える
日本放送出版協会
¥ 1,680
この本は、1960年代のカウンタカルチャの文化や、メディア論が、現在のウェブにどんな痕跡を残しているのかを知るにはとても良い本だと思う。カウンタカルチャからハイテクヒッピーの系譜、と、言っていいと思う。(ただ、わたしが抱いてる疑問-ヒッピーたちの失敗をどうウェブは克服していくのか-にはあまり答えてはくれてない)。
つまり、カウンタカルチャのヒッピーたちはコミューン(共同体)を理想としてそのような暮らしをしようとしたが、その流れが、コンピュータ文化に流れ込んでるよ、ということがわかった。ヒッピーたちは、都市部を離れて郊外に、自分たちの内に向いた共同体を作り、コミューンを形成した時期があった。このことを踏まえないと、電脳郊外の意味はわからないだろう。多くのヒッピーたちは、結局、郊外で独立したコミューンを維持することに失敗したり疲れたりして、都市部に戻ってきた。そうしたヒッピーたちが、次にコミューンを形成したがウェブのネットワークだ。だから、電脳郊外というのは、ヒッピーたちのサイバー上のコミューンと言える。
また、ホール・アース・カタログの意義の分析が良い。ホール・アース・カタログが、ノーバート・ウィーナーの『サイバネティックス』に影響を受けていることがわかった。
ヒッピーたちのコミューンや、TWECに、ウィーナーの『サイバネティックス』が多大な影響を与えている。これは、フィードバックとフィードバックループをひとつのシステムとして捉えると、自己生成的にエラーは修正されて、組織やコミュニティは、前進する……という理解でいいのだろうか。ウィーナー自身は数学者で、この考えは、戦争に使う戦闘機の砲撃精度を高めるために考えたらしい。
ハイテクヒッピーは、本書の中では、「電子(エレクトロ)ヒッピー」「テクノロジーおたく」という言葉で表現されている。
とりあえず、この本で取り上げられていたカウンタカルチャからハイテクヒッピー系の文献を記す。これはあくまで個人的な覚え書きです。(書籍の巻末には、下にあげたリストとはまったく別に「主な参考文献と推薦図書」というリストがある)。
- 1948年『サイバネティックス 動物と機械における制御と通信』
- 「同書は数式ばかりが並び、素人にはまったく意味不明だった。この本をたまたま手に取った人は、気の触れた科学者が社会について想像力の限りを尽くして書いたものという印象を受けた。」(p.39)
- 「ブランドの妻ロイスが忙しくカタログを作っている横で、ブロックマンとブランド本人は、ブロックマンによると、一緒に座って食い入るようにノーバート・ウィーナーの『サイバネティックス』を読みながら下線を引いていたそうだ。」(p.61)
- 『人間機械論 人間の人間的な利用』
- 『サイバネティックス』より「やや読みやすい続編」(p.39)
- 「ウィーナーはサイバネティックスという彼のアイディアを少しずつ明らかにしようとした。」
- 1962年『カッコーの巣の上で』
- TWECのスチュアート・ブランドがいっしょに過ごしたことがあるカウンタカルチャの伝説的な人 (p.59)
- 1962年『グーテンベルグの銀河系』
- 1964年『メディア論 人間拡張の諸相』
- 「メディアはメッセージである」
- 「通信メディアを理解するうえで本当に重要となるのは、伝達される内容ではなく、新たなメディアが社会のイメージを変え、その発展を加速させることだと主張したのだ。」(p.74)
- 「地球村」(これは書名ではない。マクルーハンの思想)
- 「相互理解と相互責任に満ちた新たな時代が到来するかもしれない」(p.76)
- 1968年『ホール・アース・カタログ』
- スチュアート・ブランドによる「最新の電気製品から屋外用の娯楽品まで、都市を離れてコミューンで暮らす人々にとって役に立ちそうなあらゆるものに関する記事が雑多に並」ぶカタログ
- 「ノーバート・ウィーナーが考えた、情報とフィードバックが自由におこなわれるシステムそのもの」(p.61)
- 1968年12月ハイパーテクスト/コンピュータとマウスの組み合わせを初公開したデモンストレーション
- ダグラス・エンゲルバート
- ブラントは、デモンストレーションの撮影をするビデオカメラを担当(p.82)
- 1969年ARPANET(銀河系間ネットワーク)
- アメリカ国防総省国防高等研究事業国(DARPA)が作った世界ではじめてコンピュータが連結したネットワーク
- 1981年 「IBMが個人用(パーソナル)コンピュータの大量生産を開始」(p.100)
- 1983年『ホール・アース・ソフトウェア・カタログ』
- TWECの後続誌。ブランド
- 1987年『メディアラボ メディアの未来を創造する超・頭脳集団の挑戦』
- ブランド著 MITと通信テクノロジーとの関わりの歴史。(p.105)
- 1993年『ワイアード』(雑誌)
- TWECの編集者の一人、ケヴィン・ケリーがサンフランシスコで発刊した雑誌 (p.105)
- 1995年『「複雑系」を超えて システムを永久進化させる9つの法則』
- ケヴィン・ケリー著 「ネットワーク化された世界で経営をつづけるとしたら、コントロールするのをやめ、人々が自分たちで組織を作っていくのに任せるしかない、と示唆している」(p.106)
- 2007年『読んでいない本について堂々と語る方法』
- 「本そのものよりも、こうした本を文学という「システム」にまとめているあまたの結びつきのほうが重要」(p.94)