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shinoのときどき日記


2013年08月05日(Mon)

山月記を読んだ。

山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)
中島 敦
岩波書店
¥ 840

だるいなぁとか、さみしいなぁとか、そういうことをtwitterなどでつぶやくことはよくないと何かで読んで、それからなるべくそうしたことは、Google検索窓にぽいっと放り込むようにしてる。

twitterでつぶやいたって、何の手応えもかえってこないものだけど、Googleにかかればあら不思議。同じように喘いでいる人々の嘆息が、ざくざくと出てくるのだ。そこで自分だけでないのだなぁ、と、慰められることもあれば、それが小町や知恵袋だったりして徹底的に「あなたの認識が甘い!」と叩かれているようなこともある。

昨日、ぽいっと放り込んだ言葉は、「さみし過ぎて発狂しそう」。そのトップヒットがこちらのページだった。

1人が孤独過ぎて寂しさにもう辛くて辛くて発狂しそうです。 いつまで続くのでしょ... - Yahoo!知恵袋

そのベストアンサーがこれ。

山月記(さんげつき)を読んでみてください。 まさに今のあなたです。

山月記か。大昔、さらっと読んだ気もするけど、孤独過ぎて発狂しそうな人がベストアンサーにしているならば効いたのか、と、青空文庫からダウンロードして読んでみた。

ひとりの男が居て、若い頃は大層なインテリでそれなりの仕事もしていたし妻子もいたのだけど、自ら孤独を好み人から遠ざかっているうちに、落ちぶれてきて、ある日、虎に変化してしまった。作中ではそう呼んでないけど、便宜的にその男を虎になった男、虎男(とらおとこ)とでも勝手に呼ぼうか。

虎男が虎になってから数年たった時に旧友が通りかかり、二人で会話したのだが、そこで虎男の罪業がつまびらかになる。山月記は、人間が虎になった摩訶不思議のファンタジーではなく、虎への変化の元となった原因、言い換えるなら罪業こそが核心の物語だ。

虎男の罪業は何だろうか。

虎男の人生には二つの大切なものがあった。一つは男自身が持つ詩作をする芸術的才能。もう一つは男の妻子。

人間としての良心や、悔いる心があるならば、虎に変化し残してきてしまった妻子を心配し、友人に託すことを最優先にするだろう。だが虎男は妻子よりも、自身が詩作した作品を友人に託すことを優先した。

虎男はこの時、人間の意識を保てる時間が少なくなり、旧友を旧友として認識できる時間はそんなに多くないことを自覚していた。もしかしたら会話をしている最中に、人間としての意識が途切れるかもしれない。そして、旧友を食い殺してしまうかもしれない。そんな切羽詰まった再会の中で、虎男は妻子よりも、エゴを優先した。

虎男にとっては、周りの人々よりも、妻子よりも、自分の才能が第一というエゴがあった。これが、虎男の罪業だ。他人を大切にせず、孤独を好み、自分の才能だけを尊んできた罪業の成れの果てが、異形の化身として虎になった惨めな人生だ。

さて、山月記を踏まえて、もう一度、かの 1人が孤独過ぎて寂しさにもう辛くて辛くて発狂しそうです。 いつまで続くのでしょ... - Yahoo!知恵袋を振り返るならば、寂しすぎて発狂しそうな人は、他人を大事にしていなかったことに気がついたのかもしれない。まだ発狂しそうなだけで踏みとどまっているならば、虎男の犯した罪の二の轍を踏まないよう注意すること。それができるならば。

現実に、虎に変化するという物理現象はおこりえないけれど、人間のまま精神が異形の者になることはありうる。

その昔、わたしが高校生の頃、山月記を読んだ時はまだ寂しすぎて異形な者になるなんて体験をしてなかった。

山月記では虎になった異形の惨めさがよく描かれてるけど、高校生の頃は変化したのが蛙や蟻じゃなくて虎だったり、最後に咆哮する場面がカッコよかったりするせいで、今ひとつその惨めさを読み取れてなかった気がする。むしろカッコいいとさえ思っていた節がある。

しかし、40も目前になれば、寂しすぎておかしくなってくる自分、という体験はどこかしらで経てきているので、あのおかしくなった時の惨めな攻撃的な精神の比喩としての虎など非常によくわかった。この本は、今また読んで良かったな、と、思った。

Tags: 読書

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