2012年10月14日(Sun)
■ 『ダンプ &通子の夫婦でゆったり登山術』今井通子 高橋和之 著
2000年に文庫書き下ろしされたこの本は、一流登山家と初心者にやさしい登山専門店のオーナー夫妻の共著だけあって、夫婦でなくても、登山初心者なら誰でもに向けて親切な本に感じられた。
登山専門店に行くと、道具の高価さに、どこから手を出してゆけばよいのか迷うけれど、装備のお金をかける順、選ぶ時の素材の基準などが明確でわかりやすい。
また、着替えのタイミングや水の飲み方、持ってゆく量、山小屋の利用方法など細かなTipsが具体的。
本が出て10年経っているのでもしかしたらまた少し変わっている部分もあるかもしれないけれど、既に環境問題が議論される時代なので、例えば山中の水場は1970年代は使えていたけれど、2000年当時になると、大腸菌や屎尿によるアンモニア、また、水銀など公害物質が検出されるようになったので、飲まない方が良いと記されている。こうした部分は信頼した方が良い気がした。
それにしても驚いたのは、高橋和之氏の北穂高南稜での骨折した登山者の救助活動だ。その時、すでに夜になり、現場で救助準備していたところ、畳一枚もある岩がゆっくり動いてきたそうだ。慌てて100m下の後発救助メンバーに「落石!」など叫び、転がり落ちる岩は直撃はしなかったけれど、20代のメンバーが一名、落石を避ける際にバランスを崩し、滑落死されたそうだ。
この場面、少し結果を変えて、漫画『岳』の中にも出てきていた。漫画で読んだ時、まさかこんな二重遭難があるのかと思ったけど、本当にあった話が下敷きだったのかと、改めて驚いた。
高橋和之氏の話では、高齢の登山者が夕暮れ、すでに遅いから行動はやめたらという山小屋でのアドバイスに耳を貸さずに登山した結果、こうなったと説明があった。高齢になるほど、我を張り、アドバイスを拒む傾向があることに対しての警鐘として書かれていた。(漫画はそういうニュアンスとはまた別な展開だった)。
ゆったり登山術という、ゆるふわなタイトルだけど、内容はハードな面もあり、読み応えがあった。