2011年01月30日(Sun)
■ 『ハーモニー』を読んだ。
久しぶりにSF小説を読んだ。新井素子の『あたしの中の…』と栗本薫の『レダ』を彷彿とさせられた。著者は男性だと思うのだけれど、男性もこういうSF小説を書くようになったんだな、と、思った。1970-80年代の少女漫画で流行ったSFものの雰囲気がそこにはある。
ネットで評判を見る限り好評で、わたしも読む分にはおもしろく読んだけれど、「その視点は若すぎるんじゃないのかなぁ」と、苦言を呈したいところがあり、もやもやしたものが残った。
基本的に、慈母的ユートピアに、若者がいかに対峙していくかという小説だと思うのだけれど、それへの反逆が煙草やお酒というアイテムで、浅い気がした。他にもあるけれど、ネタばれになるのであまり書かない。
せっかく主人公が女性なのだから、慈母的ユートピアに対して、そこに立つ女性性の葛藤をもっとえぐるような方向もアリだったのではないだろうか。「あ、そこもっとつっこめるのに!」と思う箇所が多々目立っただけに残念。
と、やや辛口な感想なのだけど、よかったのは、作者がどう意図していたのかはわからないけど、主人公の苗字が「霧慧」(きりえ)で、これはもしかして、キリスト教用語の「キリエ」のあて字なのだろうか? キリエとは、「主よ、憐れみたまえ」という祈りの言葉で、個人の意志ではどうにもならないままならぬ「生」を、主人公の存在そのものが、祈りながら求めていく小説だという視点で読んだら、とても味わい深いものだった。